ただ一人のために。

こういう話は、まとめて本なりウェブページなりで公開したほうが、読者にもわかりやすく、資料的価値もあると思う。が、ふと思い出したことなので気にせずに読んでいただけたら幸い。
1999年の6月、大阪のJR天王寺駅にある歩道橋で、ストリート販売をしたことがあった。一人で本を片手に、立っているというだけだったような…。もちろん、立ち止まる人などいない。2時間くらい人の波と周りのストリートミュージシャンやアクセサリーの露天だけを見ていた。ふとした瞬間、一人の女学生に声をかけられた。
「ください!」
ありがとう。大阪の高校生は全国的に見てスカートが長い。だから、中学生なのか高校生なのかはわからなかった。本を手に取り、ぴょんぴょんはねるように去っていった。その後姿を忘れることはできない。そして、彼女は降りる階段付近で連れと合流した。「買っちゃったよ!」
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当時はその嬉しそうな彼女という良い記憶と、一部しか売れなかったという悪い記憶が混在していた。けれど、今はあの時の彼女に救われている。きっと、僕は勇気を出してもっと積極的に人の波に訴えかけるべきだった。勇気があったのは、彼女だったのだと。
そして、もうひとつ。今の僕はあの時の彼女を裏切ってはいないだろうか?